君が代伴奏拒否事件 平成19年2月27日最高裁第三小法廷判決
平成16年(行ツ)第328号戒告処分取消請求事件
【事件の概要】
平成11年4月1日に東京都内の小学校に着任した音楽教師が、同年同月5日に開か
れた職員会議の席上で、校長から翌6日の入学式で君が代の伴奏をするよう指示
されたが、思想・信条上の理由(君が代がアジア侵略で果たしてきた役割などの正確
な歴史的事実を教えず、子どもの思想・良心の自由を保障する措置をとらないまま
君が代を歌わせるという人権侵害には加担できない)により拒否した。翌日の入学
式では、国歌斉唱時に5〜10秒間待ったが、音楽教師がピアノ伴奏を開始しない
ため、あらかじめ用意してあった君が代の録音テープを再生して、国歌斉唱が行わ
れた。音楽教師は、職務命令に従わなかったという理由で戒告処分を受けた。
【判決の要旨】
ピアノ伴奏を命ずる職務命令が音楽教師の歴史観・世界観を否定するものとは認め
られない。公立小学校では儀式の際に国歌斉唱が行われてきたので、音楽教師に
ピアノ伴奏を命ずる職務命令が音楽教師に特定の思想を持つことを強制したり、
禁止したりするものではない。「すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の
奉仕者ではない。」(憲法15条2項)と定められているので、上司の職務上の命令
には従わなければならない。学校教育法では、小学校教育の目標として、「郷土及び
国家の現状と伝統について、正しい理解に導き、進んで国際協調の精神を養うこと。」
と規定され、学習指導要領では、「国家を斉唱するよう指導するものとする。」と定
められていることから、この職務命令の目的・内容が不合理であるとはいえない。
従って、この職務命令が音楽教師の思想・良心の自由を侵害するものとはいえない。
【各裁判官の判断】
1.
那須弘平裁判官(多数意見)の補足意見
音楽教師が君が代伴奏を強制されることは、思想・良心の自由の制約と考えられ
るが、一方では学校行事は統一的な意思決定に基いて整然たる活動が必要とされ
るだけでなく、君が代斉唱に積極的な意義を見出す人々の立場も尊重する必要が
ある。それが「全体の奉仕者」としての公務員の本質である。行事の目的を達成
するために必要な範囲内において、校長の裁量による統一的意思決定に服させる
ことも「思想・良心の自由」との関係で許される。
2. 田原睦夫裁判官の判断は、多数意見のとおり
3.
藤田宙靖裁判官(国民審査対象外)の反対意見
音楽教師の「思想及び良心」は、「君が代」が果たしてきた役割に対する歴史観・
世界観だけでなく、「君が代」斉唱を公的機関が学校行事で強制することに対する
否定的評価も含まれる可能性がある。公務員が全体の奉仕者であるとしても、
公務員がいかなる人権の制約をも甘受しなければならないことにはならない。
学校行事での君が代伴奏が音楽教師の本来の職務であるとは言えないし、ピアノ
伴奏拒否により行事に支障があったわけでもない(録音テープの再生で済んだ)。
音楽教師の「思想・良心」の内容とそれを制約して得られる利益とを慎重に比較
検討すべきである。
【憲法参照条文】
第19条 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。