将来給付の可否 平成19年5月29日最高裁第三小法廷判決
平成18年(受)第882号横田基地夜間飛行差止等請求事件
【事件の概要】
横田基地の周辺住民らが、国に対して、米軍機の発する騒音により精神的又は身体
的に被害等を被っていると主張して、夜間飛行の差止及び損害賠償を求めて提訴。
二審では、国に約32億5千万円の損害賠償を命じた。しかし、国は口頭弁論終結
日の翌日から判決言渡日までに生ずる”将来分”の損害賠償請求を認めた判決を不服
として上告した。
【判決の要旨】
飛行機等の離着陸にともなう騒音が、口頭弁論終結後も続くことが予測される場合
であっても、予めその請求権が成立しているのか、及び損害額がいくらになるのか
を明確に認定することはできず、将来その損害が具体的になった時点で、住民らが
そのことを証明した上で請求をするべきであり、口頭弁論終結後判決言渡日までの
損害賠償請求権については、その性質上将来給付の訴えを提起することのできる
権利としての適格性を有しない。よって、この部分は法令の解釈に誤りがあること
から請求は認められず、損害賠償額を2億円あまり減額した。
【各裁判官の判断】
1.
那須弘平裁判官の反対意見
将来給付の対象となる期間が原判決言渡日までという短期間に限定されており、
その間の損害については、取り立てて変化が生じないことが推認される。将来
給付を認めるには、明確に損害額を認定できることが要件と言っても、どんな
事例であれ、限界があることは当然である。明確性を厳格に追求すると、かえって
わざわざ条文を作って、将来給付を可能とした法の趣旨からも反することになる
(編集者注:下記民事訴訟法第135条条文参照)。もし、請求権に影響のある
変更があったとするなら、国は請求異議の訴えにより執行を阻止することも可能
である。住民らの適切かつ迅速な救済を図るために、短期間に限定して予測される
将来の損害賠償請求を認めるべきである。
2. 田原睦夫裁判官の反対意見
過去の判例において、不動産占有者の明渡までの賃料相当額の損害金については、
明確な損害として将来の給付を認めているが、これについてもバブル期の不動産
価格の大幅下落等のケースをみると、予め明確に予測できるとはいえないもので
ある。一方、横田基地周辺住民らは、騒音等にかかる損害賠償請求訴訟を度々
提起しており、そのなかで昭和52年以来30年近くにわたって激しい騒音の
被害を受けていたことは明確であり、今後被害が続くことも容易に予測される。
そのような中、口頭弁論終結後の請求が認められないのであれば、住民らは新たに
訴訟を提起するより他なく、経済的、精神的負担とともに、多大な時間も要する
し、社会的コストも無視できないものである。
よって、将来の損害賠償請求を認めた上で、事情が変わった場合には、国が請求
異議の主張をするということのほうが双方の均衡が取れていると言えよう。
判例は変更されるべきであり、本件のように将来の損害の発生も高い確率で認め
られるような場合には、今後は判決言渡後の損害賠償請求も認めるべきであろう。
【民事訴訟法参照条文】
第135条 将来の給付を求める訴えは、あらかじめその請求をする必要がある
場合に限り、提起することができる。